彼に抱かれた翌日は、いつも雨だ。

ベッドで目覚めた私はカーテンの外から漏れる水音を聞きながら、彼がいた痕跡があるシーツを指でなぞる。


……一言ぐらい声をかけてくれたらよかったのに。

隣で寝ていたはずの彼の温もりは、もう残っていなかった。


彼と出逢ったのは今から五年前。私が24歳。彼が30歳の時にいわゆる街コンというもので知り合った。

席替えタイムで同じテーブルになり、お互いに友達に無理やり参加させられたことと、映画はひとりで見るものという考え方が同じなこともあって、私たちはその日に連絡先を交換した。


そこから友達関係を一年続け、なんとなくこの人なら心を許せるかもしれないと意識し、ふたりでごはんを食べにいく距離感になって、さらに一年。


『綾(あや)のことが誰よりも好きなので、俺と付き合ってください』

スカイツリーが見えるレストランで彼から告白された時は、もうそれは天にも昇るような気分で。もちろん私は『はい』と二つ返事でオッケーをした。


あれからもう三年。

……好きなんて、最後に言われたのはいつだっただろうか。

濃厚で濃密で、触れられるたびに大切にされてると思えたベッドの中でも、最近は流れ作業のように彼はそそくさと終わらせる。


『私のこと、ちゃんと好きでいてくれてる?』

『私との将来はどう考えているの?』


いつの間にか29歳を迎えてしまった私には、それらの言葉を聞く勇気はなくなっていた。