やっとご遺族のもとに帰すことができる。そう藍はホッとしたのだが、大河の声はどこか迷っているような様子だった。

「大河くん?」

大河の様子がいつもと違い、藍の中に嫌な予感が生まれる。大河が恐る恐る訊ねた。

「今、知りたいですか?」

「……何を?」

「亡くなった方々のことです」

「そうね」

聞くべきではない。そう思う気持ちも藍の中にあった。しかし、聞きたいという思いの方が強かったのだ。

「落ち着いて、聞いてください」

暗く、重い声で大河は亡くなった人たちの名前を告げる。その名前を聞いた刹那、藍の心臓は嫌な音を立てた。ドクドクと鼓動が早まり、うまく言葉を話せない。

スルリと藍の手からスマホが滑り落ちる。ガチャンとフローリングの上に落ちたスマホを、藍は拾う気にもなれなかった。ただ、「嘘……」と呟き始める。

ずっと、会いたいと思っていた。いつも、探し続けていた。こんな形なんて、誰一人望んでなどいなかった。

『足に銃弾の痕があったご遺体は、DNA検査の結果、桐生青磁さんだと判明しました』