「……これは、仕方のないことです……」

正人が悲しげに言う。藍は目の前の遺体を見つめ、そっと触れた。硬く、冷たくなっている体。体温を感じない。この体には、もう魂は宿っていない。

「……まだ!まだできることはあるはずです!!このままじゃ、翠さんは……」

大河が叫び、正人はうつむく。朝子と聖も悲しげな目をしていた。藍はご遺体から目を大河に向け、ゆっくり首を横に振る。

「もう私たちにできることはないわ。……翠さんに真実を伝えましょう」

重い空気の中、解剖室の片付けが行われた。



正人が連絡を入れると、すぐに石川翠はやって来てくれた。その顔はとても緊張していることを物語っている。

「……茜の死因がわかったんですか?」

期待するような目を向ける石川翠に、藍は申し訳なさそうに首を横に振った。石川翠の目が見開かれ、大河たちは石川翠から目をそらす。藍は説明した。

「稀に、どれだけ調べても死因が全くわからない不審死というものがあります。茜さんは内臓にも、髄液にも、どこにも異常はありませんでした」