俺の通う小学校には、「ふれあい班」と呼ばれる縦割り班の活動があり、紬は俺が班長を務める班の2年生だった。

 色白で、でも頬はりんごみたいに赤くて、くりくりの円らな瞳をキラキラさせながら、いつも「ひろくん、ひろくん」と俺を慕ってくれる、とってもかわいい女の子。
紬は、いつもまだ不器用ながら、折り紙で一生懸命折った花や鶴をよく俺にプレゼントしてくれた。

 あれは俺が6年生の2月のこと。
最後のふれあい班活動の日、紬はただ四つに折っただけの綺麗なピンクの折り紙をくれた。

これは…?

何の形にも見えなくて、俺が首を傾げると、

「ひろくん、
 これ、絶対、おうちに帰るまで開いちゃ
 ダメだからね。
 約束だよ!」

と紬は真剣な顔で言う。

開いちゃダメってことは、中に何かあるのか。

俺は少し納得して、

「分かった。約束な」

と折り紙をポケットにしまった。


 だけど、小学生の俺は、とても家までなんて我慢できなくて、すぐにトイレに行ってその折り紙を開いた。

『ひろくんへ
 だいすきです。
 大きくなったら、
 ひろくんのおよめさんに
 してください。
        つむぎより』

か、かわいい〜!

俺は、今まで、何人かの女子から告白されたことはあるけど、ラブレターっていうのをもらったのは、これが初めてだった。

初めてのラブレターがこんなにかわいい手紙だなんて。

 俺は、だらしないほどニヤニヤしながらトイレを出て教室に戻る。

「尋輝、何1人で笑ってんだよ。
 キモっ!」

クラスメイトにそう言われても、俺はニヤニヤを止めることができないくらい、嬉しかったんだ。


 俺は、翌日、昇降口のところで紬を捕まえる。

「紬、おいで」

「ひろくん!」

俺が呼ぶと、紬は嬉しそうにちょこまかと駆け寄ってくる。
俺は、紬を手招きして耳元でひそひそと囁く。

「昨日は手紙、ありがとう。
 俺、大きくなったら、絶対、紬を迎えに
 行くから、待ってろよな」

それを聞いた紬は、花が咲くように満面の笑みを浮かべて、

「うん! ひろくん、約束だよ!」

と言った。