カメレオン王子と一人ぼっちの小鳥ちゃん


 ◇◇◇


「琴梨、遅いよ!」


「ごめん、七海ちゃん。
 朝、ぼーっとしちゃって。」


「どうせ、
 礼音くんの寝顔でも見てたんでしょ?」


「な……なんでわかるの?」


「やっぱり当たってた?
 ある意味、琴梨ってすごいよね。

 礼音くんと付き合って、もう2年でしょ。
 今では二人で住んでるのに、
 未だに『礼音くん大好き』だもんね。

 付き合い初めのカップルか!って思うよ。」


「だって……
 一緒にいると……
 どんどん好きになっちゃうんだもん……」


「琴梨、かわいすぎ!
 礼音くんが、
 琴梨を離さない気持ちがわかるわ。
 
 あ、そんなこと言ってる時間なかった。
 琴梨、
 お客さんどれだけ入ってるか見てきて。」


 私は、イベントステージの暗幕を少しだけ開け、
 客席をのぞいた。


 今から私と七海ちゃんの二人で、
 図書館でクリスマスの読み聞かせ会をする。


 いつもは、30人くらいの子供たちに囲まれて、
 絵本を読んだり、
 手遊びをするくらいだけど、
 今日は規模が違う。


「もう、100人くらいはいるよ。
 なんか緊張してきた。」


「大丈夫でしょ?
 毎週、子供たちの前で読み聞かしているし、
 今日はお客さんがいつもより
 多いってだけでしょ。」


「だって、図書館の山本さん、
 250人くらいお客さんが
 来るって言ってたし……」


 今日はいつもの読み聞かせ会と違って、
 絵本を読むだけでなく、
 クリスマスソングを歌ったり、
 着ぐるみを着て劇をしたりもする。


 たくさん練習をしてきたけど……

 いざお客さんを見ちゃうと、
 緊張の波がザブンザブンと押し寄せてきた。


 私は、今日の朝のことを思い出した。



『琴梨がステージの上で緊張しないように、
 おまじないを掛けてやるから』



 礼音くんはそう言って、
 私の前髪をクルっと丸めて、
 ヘアピンで止めてくれた。


 このヘアピンは、
 初めて私がたくさんの人の前で
 読み聞かせをした時に、
 礼音くんがつけてくれたもの。


 初めて礼音くんと話したあの時も、
 私にこのピンをつけてくれたよね。



 私はストーンがちりばめられた
 ヘアピンを触りながら、
 ステージの上で、深く深呼吸をした。