◇◇◇
「琴梨、あがって。」
「え~と……
お邪魔します……
ヒャ!!」
玄関を上がりリビングに入ると、
首から上しかないマネキンが3体、
私を見つめていた。
すいません。お邪魔します。
心の中で、マネキンに挨拶。
どうしよう……
この髪が長―いマネキンさん達も、
礼音くんのことが好きだったら……
夢に出てきて、
うなされそうな予感がする……
「これなら大丈夫だろ?」
マネキンの顔に布をかける礼音くん。
私の心、読まれちゃったかな……
「あ……ありがとう……」
「この部屋、狭くてごめんな。
適当にソファの座って。」
私は促されるまま、
二人掛けのソファに座った。
礼音くんは、ソファの前に座り込んだ。
「見慣れてない奴は、普通ビビるよな。
首から上だけのマネキンなんて。
カットやヘアアレンジの練習で使うから、
出しっぱなしでさ。」
「スタイリストになったのに、
まだカットの練習とかするの?」
「する。する。
お店を閉めてから、店でも練習をするし、
空いてる時間はここでもやる。
俺の技術なんて、まだまだ出しな。
店長や先輩のカットを見てると、
追いつけていない自分が悔しいし。」
「そっか。
スタイリストのなっても、
努力が必要なんだね。」
礼音くんって、本当に頑張り屋さんなんだね。
感心している自分の隣に、
心が灰色になっているもう一人の自分が。
サクラさん……
この家に来たりしているんだよね……
私の陰った心を見透かしたように、
礼音くんが聞いてきた。
「琴梨、何?」
「え?」
「今、何考えてる?」
「え……あ……
何でもないよ……
マネキンさん達、髪長いなって思って……」
「嘘、バレバレ。
何で暗い顔してた?」
「え……と……
サクラさんは……
よく来るのかなって思って……」
「どこに?」
「ここに……」
礼音くんが、急ににやけた顔で私を見た。
「もしかして琴梨、
嫉妬してる?」
「……うん。
そうだったら……
嫌だなと……
思って……」
「やばい。
素直な琴梨が、可愛すぎる!」
「ええ?」
「あいつとは、何でもねえよ。
かわいいと思ったことなんて一度もないし、
この部屋に来たのだって、
同期5人で勉強会をするってなった時に、
一度だけこの家に集まっただけ。」
そ……そうだったんだ……
良かった……
「琴梨……
俺の隣に座って。」
となり……
その言葉に、急に私の鼓動が早くなった。



