☆礼音side☆
琴梨のカットが、終わってしまった。
もう少しだけ、
もう少しだけでいいから一緒にいたいと思って、
ヘアアレンジもしたけど、
もう琴梨との時間を引き延ばせそうにない。
俺は本当にヘタレだな。
奇跡が起こって、
6年ぶりに琴梨と会えたのに。
『また会いたい』と、
俺の素直な思いは伝える勇気がないんだから。
今だけ、
カメレオン王子に戻らせて欲しいけど……
結局高校の時も、
大好きな琴梨の前だけは、
カメレオン王子になれなかったよな……
琴梨に渡したいものも……あるのにな……
琴梨はお会計を済ませると、
俺に微笑んだ。
「礼音くん、会えてよかった。」
その瞳の奥が悲しく光ったような気がしたが、
俺はドアに向かい歩き出した琴梨の手を、
つかむことさえできない。
その時
「あ、いらっしゃい。」
二階から、店長の裕章(ひろあき)さんが、
猛スピードで駆け下りてきた。
「ごめんね。
お客さんがいたことに気が付かなくて、
挨拶もしないで。
私、この店の店長の穂波です。」
いきなりの店長登場に、
ドアに手を掛けたまま、
琴梨は店長に頭を下げた。
「礼音のお友達の琴梨ちゃんでしょ?
琴梨ちゃんは、電車で来たの?」
「はい。」
「ちょうど良かった。
礼音、
駅前店に届けて欲しいものがあるんだけど。
琴梨ちゃんを駅まで送りながら、届けてくれる?
礼音も、このままあがっちゃっていいから。」
「でも店は?」
「大丈夫。
この後も予約は入ってないしさ。」
裕章さん……
ダメダメな俺を見かねて、
琴梨といるチャンスを作ってくれるなんて……
本当に神!
「琴梨、ちょっと待っていて。
俺、荷物取ってくるから。」
琴梨が一人で帰ってしまうのが怖くて、
俺は急いで、荷物を取りに行った。



