礼音くんは、
真剣な表情で私の髪を切っていく。
その真剣な顔に引き込まれるように、
私はつい、
鏡越しに礼音くんを見入ってしまった。
時折、私の頬に触れる礼音くんの指。
触れられるだけでドキドキで
心臓が苦しくなるのに、
もっと触れて欲しいなと思ってしまう。
「ねえ、琴梨。」
「ひゃ!」
「何、今の声?」
「え……だって……
礼音くんが、急に話しかけてくるから……」
「話しかけない方が良かった?」
そんなことない。
私は礼音くんと話したくて、
勇気を出してきたんだから。
礼音くんのことが知りたくて、
たまらないんだから。
「話……たい。」
「琴梨の素直なところ、可愛いじゃん。」
礼音くんは私に微笑むと、
頭をポンポンとしてくれた。
「琴梨はあれから、どうしてた?」
「おばあちゃんの家から、違う高校に通ったよ。
卒業して、今は事務の仕事をしてる。
礼音くんはすごいね。
高校の時の夢、叶えちゃったんだもんね。」
「あ、美容師になりたいって、
あのころから言ってたよな、俺。
高校の時なんて、学校以外の時間は、
陽介さんの美容院で、バイト三昧だったしな。」
「自分の目標に向かって、
できることをひたすら頑張る礼音くんは、
素敵だなって思っていたよ。
私も、そういう人になりたいなって。
だからね、今……」
「ん?今、何?」
「え……と
今…
いろんな図書館や子育て支援センターで……
絵本の読み聞かせ会をしているの。」
「人前で話すの、平気になったのか?」
「う……うん。
礼音くんと一緒だった高校を辞めてから、
1か月くらい、家に引きこもっていたんだ。
小6で誘拐されそうになったあの日、
なんで、友達を置いて走り出しちゃったん
だろうってずっと考えていた。
友達はね、警察の助けが来るまで、
ナイフ持った男二人に車の中で脅されて、
体とか触られてたんだって。
だから友達が保護されたときに、
私に向かって言った友達の言葉が、
ずっと頭から離れられなかった。
『なんで一人で逃げたの?
琴梨がいなくて、
私がどれだけ恐怖だったかわかる?
もう、私に話しかけないで。
琴梨と親友なんてならなきゃ、
こんな怖い思いしなくてすんだのに』って
涙をポロポロ流しながら言った
友達の言葉がね。
もう、ずっと家の中で暮らそう。
外に出るのも、
学校に行くのも辞めようと思っていた時に、
家に来たの。
その友達が。
引きこもっている私を見かねたお母さんが、
その子を家に呼んだみたい。
そして、
5年ぶりくらいに会ったその子がね、
私に言ったの。
『ひどいことを言ってごめんね。
あの時、助けを呼びに行ってくれて、
ありがとうって。』
その日からかな、
私も前を向こうって思えるようになったのは。
社会人になって、
その友達に誘われたんだ。
また一緒に、お芝居しようって。
その子と相談して、
二人で読み聞かせボランティアを始めて、
今は、出張イベントをしたりしているの。」
「なんか安心した。
琴梨が、自分のやりたいことをやっていてさ。
琴梨の前髪、切ってもいいか?」
「うん。」
礼音くんの顔が、急に私の真ん前に来たから、
恥ずかしくなって、
きつく目を閉じた。
「琴梨、できたよ。」
私はゆっくり目を開けた。



