◇◇◇
次の日、
俺はいつものように朝早く出勤した。
今日は平日。
お客さんもいなくて、
休日と違って、ゆったりと時間が流れている。
お昼前、
一本の電話が、お店にかかってきた。
「はい。スプリングです。」
「あの……初めてなんですけど……
カットをお願いしたいです……」
「カットですね。
ご希望のお日にちやお時間はありますか?」
「え……と……
今日の午後で、
空いている時間はありますか?」
「今日の午後ですね。
ご希望のスタイリストはいますか?」
「はい……
花名……くんで……
お願いしたいです……」
え?
俺?
この声って……
「もしかして……琴梨?」
「あ……えーと……
はい……」
俺は
受話器を持ったまま
固まってしまった。
「あ……あの……
ごめんなさい……
やっぱりいいです。」
「待って!
電話、切らないで!」
俺はとっさに、
声を張り上げてしまった。
琴梨から何も返事がないまま、
お互い無言の時間が過ぎていく。
何か言わなきゃ……
この奇跡が……
消える前に……
「琴梨……
会いたい……」
俺の琴梨への切ない思いが、
抑えられなくなった。
「琴梨……
今すぐ……
会いたい……」
そして長い沈黙の後、
琴梨の声が、受話器越しに聞こえた。
「じゃあ……
カットをお願いしても……いい?」
「今すぐ来い!
早く来ないと、お前の髪、
切ってやらないからな。」
フフフと優しく笑う声が、
俺の耳に届いた。
「やっぱり……
そっちの礼音くんの方がいい」
琴梨の言葉に、
高校の時の琴梨との時間を、思い出した。



