カメレオン王子と一人ぼっちの小鳥ちゃん


◇◇◇

 琴梨が学校に来なくなって、今日で10日。
 
 翼先輩が、俺を、
 読み聞かせ部の部室の前に呼んだ。


「礼音くん、呼び出して悪かったね。」


「いいえ。」


「琴梨が学校をやめたって本当?」


「はい。
 今朝、担任が言っていました。」


「開都いわく、
 琴梨はもう引っ越したって言っていたけど。」


「俺もそこまでは……知りませんでした。」


 そっか……

 琴梨はもう
 あのマンションにいないのか……


「実は礼音くんに、
 渡したいものがあって。」


「俺に渡したいものって、何ですか?」


 翼先輩は、
 ハンカチで丁寧に包んであるものを、
 俺に手渡した。


「これって?」


「いいから、開けて。」


 翼先輩に言われるがまま、ハンカチを開くと、
 見覚えがあるものが入っていた。


「これって……」


「礼音くんが、琴梨の友達と付き合いだしてすぐ、
 琴梨に頼まれた。

 預かっていて欲しいって。」


 それは、
 読み聞かせ会の時に、
 俺が琴梨の前髪をとめてあげた、
 ヘアピンだった。


「なんで……先輩に?」


「これがあると、  
 礼音くんのことを考えてしまうから
 苦しいんだって。

 もう、友達の彼なのにって。」


「俺、琴梨にフラれてるんですよ。

 美咲と付き合ったのだって、
 琴梨に頼まれたからで……」


「琴梨は、
 友達を失いたくなかったんだよ。

 やっとボッチから抜け出せたって、
 喜んでいたから。」


「でも……」



「琴梨はずっと好きだったよ。
 礼音くんのことをね。」



 俺のことを……

 ずっと好きだった……?



 それって……

 本当なのか……?



「私ね、琴梨のことがすごく心配だったの。

 教室でも独りぼっちって言うし、
 学校で心を開けるのは、
 私と開都しかいないって言うしさ。

 私が部活を抜けたら、
 琴梨は大丈夫?って思っていた。

 でもさ、読み聞かせ会の時の、
 人前で堂々と絵本を読む琴梨を見たら、
 ちょっと安心したんだ。

 舞台に立つ勇気をくれたのって、
 礼音くんでしょ。

 読み聞かせの後も、
 礼音くんが琴梨に微笑んでくれたのを見たら、
 この人なら大丈夫かもって思った。」


「え?」


「礼音くんなら、
 きっと琴梨のこと大切にしてくれるって。」


「でも俺……
 琴梨の気持ちさえもわかってあげられなくて、
 守ってあげることもできなくて……」


「人の気持ちなんて、
 わからなくて当然だよ。

 琴梨は特に、
 自分の気持ちを伝えるのが苦手だからね。」


「俺、琴梨に会いたいです……
 会って、自分の思いをもう一度伝えたい……」


「会いたいよね……
 でも……どこに引っ越したのか、
 私もわからないんだよね……」


 そうだった。


 もう琴梨は、
 この学校にはいない。

 多分、この町からも。