カメレオン王子と一人ぼっちの小鳥ちゃん


 昼休み。

 相変わらず、琴梨の悪口がこだましていた。


「美咲ごめん、俺さ、
 職員室に呼ばれているから行ってくるね。」 


 この教室にいたくなくて、
 また逃げ出そうとした時。

 髪をサラサラなびかせながら、
 一人の女子が教壇の前までやってきて、
 黒板を思い切り叩いた。


 翼……先輩……


 教室は一斉に静まり返った。


 翼先輩は、目をつり上げながら、
 低い落ち着いた声で問いかけた。


「だれ?
 琴梨の上靴を隠したの?」

 だれ?
 琴梨にひどいことを言ったの?」


 誰も何も答えない。


「琴梨の大事な絵本をビリビリにした奴、
 今すぐ出て来いって言ってんの!」


 グランドまで聞こえてるんじゃないかって
 いうくらいの大声を張り上げ、
 翼先輩は怒鳴った。


「俺じゃないよ。

 でもさ、絵本を破られても、
 自業自得じゃないですか?」


「そうそう、
 八夜は親友を裏切るような奴だしな。」


 男子たちの言葉を聞いて、
 翼先輩はさらに言葉を強めた。


「琴梨が親友を裏切ったことって、
 あんたらに関係がある?

 ないよね?


 琴梨に何かされたの?

 されてないよね?

 二人組の連続殺人犯が、
 ナイフを突きつけて、
 琴梨と友達を車に連れ込もうとしたんだよ。

 琴梨はまだ小6だった。

 絶対怖かったはずなのに、
 このままじゃ二人とも、
 殺されると思ったから、
 勇気を出して車から逃げ出したんだ。

 その時、腕を深く切りつけられて、
 追いかけられて。

 それでも琴梨は男たちから逃げて、
 助けを呼んだ。

 だから、友達も無事だった。

 それのどこが、
 友達を裏切ったってことになるんだ?

 お前たちは、
 あのまま琴梨が逃げ出さずに、
 親友と殺されれば良かったって
 思っているわけ?」



 翼先輩の話を聞いて、
 誰も何も言い返さなかった。


「破られたあの絵本は、
 琴梨が小3の時に亡くなったお父さんとの、
 思い出が詰まった大事な絵本だったんだ。

 あいつの宝物を奪い去った奴も、
 絶対に許さないからな。」


 翼先輩は
 一人一人をにらみつけるように言い終えると、
 教室から出て行った。


 そして次の日から、
 琴梨は学校に来なくなった。