カメレオン王子と一人ぼっちの小鳥ちゃん


「どうだ?
 琴梨ちゃん、すごくかわいいだろ?」


 陽介さんが満足そうな笑みを浮かべて、
 俺たちを見ている。


 琴梨は親指の腹で爪をこすりながら、
 床を見つめモジモジしている。


「あ……あの……
 似合って……ないよね……」


 琴梨のたどたどしい言葉に、
 やっと俺の頭が働きだした。


「琴梨、メガネは?」


「カットするときに陽介さんに預けたままで。
 だから私もぼんやりしか見えていなくて、
 自分の姿がまだはっきりとわからないの。」


 俺の目の前にいる琴梨は
 肩ほどの髪に
 柔らかいウエーブがかかっていて、
 前髪を俺があげたヘアピンで、
 ポンパにしてあった。


 いつもメガネと前髪で隠れていた瞳は、
 透き通ったブラウンで、
 リスのような大きな瞳。


 ちょっと大人っぽいけど、
 あどけなさも兼ね備えた琴梨から、
 俺は目を離すことができない。


 陽介さんは、
 俺だけに聞こえるようにささやいた。


「琴梨ちゃんに、
 どんなヘアアレンジがいいか聞いたら、
 なんて答えたと思う?」


「え?」


「『礼音くんがくれたヘアピンが、
 似合う髪型にしてください』だって。」



 思ってもいない答えに、
 俺の顔は真っ赤になった。


 なんだこれ?


 すっげー嬉しいって気持ちが、
 体の中心からあふれてくるこの感覚。


 俺、やばいな。


 琴梨のことを好きって思いが、
 俺の意思じゃ止まらないじゃん。


「琴梨先輩、かわいすぎです。」


 開都は目をキラキラさせて、
 琴梨を褒めている。


「いい!すごくかわいい!
 こんなに大きな目をしているのに、
 今まで隠していたのが
 もったいないくらいですよ。」


 琴梨を褒めまくりの開都。


 は!
 アルパカに先を越された!


 俺だって、
 琴梨が可愛いって今すぐ伝えなきゃ。

 
 そう思ったのに……



「琴梨さ……

 やっぱり切る前の方が……

 良かったかもな。」



 俺の言葉に、表情を曇らせた琴梨。


「そうだよね……
 こんな今時な髪型、
 私には似合わないよね……」


 笑顔で答えた琴梨だったけど、
 瞳は悲しそうだった。


 琴梨を悲しませたいわけじゃなかった。

 ただ……

 俺の本音がもれてしまっただけ……


 どうしても誤解を解きたくて、
 俺は琴梨の耳元に口を近づけた。


「そんなんじゃ、
 他の奴に、琴梨を取られないか心配になる。」


 俺のささやきに、
 琴梨は顔を真っ赤にして固まってしまった。


「さ、琴梨ちゃんはそろそろ帰らないと。
 お家の人が心配するよ。

 今日はアイロンで巻いただけだから、
 髪を洗えばストレートになるよ。

 ストレートの琴梨ちゃんも、可愛かったから、
 礼音も開都くんも明日のお楽しみだな。」


「ストレートか。
 俺、すごくー楽しみにしてますね。
 じゃ、琴梨先輩、帰りましょ。」


 開都はルンルン気分で、
 琴梨の腕にしがみついている。

 
 お前は女子か?って
 突っ込みたい気持ちを押さえ、
 無理やり琴梨から、開都を引き離した。


「開都、俺が琴梨を送るからいいよ。」


「何言ってるんですか、礼音先輩。

 琴梨先輩は、俺と同じマンションなんです。
 礼音先輩が送る必要なんてありませんから。」


「なに?
 アルパカの分際で生意気なんだよ、開都は。」


「カメレオン先輩に言われたくないです。」


「はいはい。
 幼稚な言い合いはそこまで。

 仲良く3人で帰ればいいじゃん。
 ね、琴梨ちゃん。」


 琴梨!
 俺と二人で帰りたいって言えよ。

 そもそも今日は、俺が誘ったんだから。


 そんな俺の思いを知らない琴梨は、
 「そうですね。」と、
 陽介さんの言葉に優しく微笑んだ。


 なんだよ。


 カットが終わったら、
 琴梨と二人だけで話せる、
 絶好のチャンスだと思ったのに……


 今度学校で会ったら、アルパカ開都の髪を、
 モジャモジャにしてやるからな。


 そして俺と開都で琴梨を挟みながら、
 並んで琴梨のマンションに向かった。