「琴梨先輩を初めて見たのは、
俺が中3の4月です。
俺、その頃、
中学に行くのがどうしても嫌で、
明日こそ学校休んでやる!って、
毎日考えてました。」
「何かあったのか?」
「親父の仕事の都合で、
転校したんですよ。
どう、クラスに溶け込めばいいかわからないし、
俺が女みたいな顔してるって、
いじってくる奴もいて、
本当に、学校に行くのがしんどくて。
明日も学校に行くのが嫌だなって思いながら、
マンションに帰ってきたときに、
マンションの外にいたんです。
琴梨先輩が。」
「で?」
「6人ぐらいの子供たちに、
琴梨先輩が絵本を読んであげていて。
その時の、子供たちに向ける笑顔が、
優しくて、
天使みたいにかわいかったんですよ。
その笑顔を見たとたんに……
好きになってました……」
「それって、一目惚れじゃん。」
「そうですよ。
いけませんか?
だって、すっごく可愛かったんですもん。
子供達相手なのに、
すごく一生懸命絵本を読んでるんですよ。」
「琴梨らしいな。」
「それからもたまに、
絵本を子供たちに読んでいる
琴梨先輩を見かけて……」
「声を掛けたのか?」
「琴梨先輩に声を掛けるまでに……
半年かかりました。」
「半年も見てるだけ?
開都はカワイイ中学生だったんだな。」
俺はニヤリと右の口元を引き上げると、
ワシャワシャと開都の髪をなでた。
「カワイイとか言うのやめてくださいよ。
コンプレックスなんですから。」
「で、なんて琴梨に声を掛けたんだ?」
「夕日が……綺麗ですね……」
「は?」
予想もしていなかった応えが俺のツボにはまり、
俺は部屋中に響く声で笑い転げた。
「礼音先輩、ひどくないですか?
もう、続きは話しませんからね。」
「わるい。わるい。
もうわらわないからさ。
で……
夕日が綺麗……アハハ。
やばい、ツボにはまった。アハハ。」
笑いが止まらなくなった俺を
睨む開都。
「マジでごめん。もう、収まったから。
ま、クッキーでも食べてよ。
それで?」
「琴梨先輩が、言ってくれたんです。
『綺麗だね』って。」
「ん?
琴梨が言ったのって、それだけ?」
「はい。それだけです。
でも、初めて話しかけた俺に、
ちゃんと返事をしてくれたんですよ。
俺はそれだけで、嬉しくて嬉しくて。」
「嬉しくて、嬉しくて、その後どうしたの?
アルパカ君は?」
「家に帰りました。」
「は~?
それだけ?
もっと話すチャンスだったんじゃないの?」
「その時の俺には、
あれが限界だったんです!
でもそれからは、
すれ違うたびに、
琴梨先輩も笑いかけてくれるようになって。
年末頃には、
『琴梨先輩の通う高校について教えてください』 って話しかけて、
だんだん、今みたいに仲良くなりました。
読み聞かせ部で、
琴梨先輩と二人で活動するようになったら、
告白しようと思っていたのに……
いきなり出てきて、
俺の恋の邪魔をしないでくださいよ。
礼音先輩。」
「しょうがないじゃん。
あの読み聞かせ会の日に、
琴梨のこと好きになったんだから。
開都が熱を出してなかったら、
琴梨の可愛さに
気づかないままだったんだろうな。
アルパカ君のおかげだな。」
「あ~あ。
読み聞かせ会まで、
時間を戻してほしいです。
そしてら、熱があろうが、
這ってでも読み聞かせ会に行ったのに……」
どうやら開都の思いも、
本物らしい……
俺の最大のライバルは、コイツだな……



