☆琴梨side☆


「そ…それは困ります、先生」


「そう言われても
 八夜(はちや)にやってもらうしかないんだよ」


「でも……」


「そう言うわけだから、頼んだぞ」


 先生……私を一人……

 置いて行かないでください……



 先生は「八夜ならできる!」と私の両肩に手を置き、本当に帰って行ってしまった。


 小さくなっていく先生の背中。

 私は絶望の眼差しで見つめたまま、その場にうずくまることしかできない。



 図書館の広いイベントステージの端。

 うずくまっている私の名前は

 八夜 琴梨(はちや ことり)

 星城(せいじょう)高校に通う2年生。


 
 私のあだ名は、『地味子』とか『ぼっち』などなど。

 
 それを聞くだけで、私が高校の教室でどんな生活を送っているか、想像ができちゃうよね?


 人見知りで、声が小さい私。

 クラスに友達なんて、一人もいない。


 友達になって!と、声をかける勇気もない意気地なし。

 教室ではいつも、下を向いて本を読んでいる。



 そんな私が、1か月前に入った部活が

 『読み聞かせ部』なんです。



 今日は図書館で、読み聞かせをするイベントの日。


 みんなでステージに立つはずだったのに……

 なぜ私一人だけしか、いないんですか??



 暗幕が閉まっている状態のステージの上。

 暗幕をちょっとだけ開けて、イベントホールの客席をのぞいてみた。


 ひえ~~~~!

 大人と子供を合わせて、すでに100人はいるんですけど……


 先生のことも、大好きな部長のことも

 可愛い後輩の開都くんのことも
 
 恨んじゃいますからね!!


 私にはこんな大役…無理なのに……


 暗幕で客席から見えない、ステージの隅。

 絵本をきつく抱きしめ、しゃがみこんでいると

「八夜さん、大丈夫?」

 聞き覚えのある柔らかい声が、頭の上から降ってきた。


 ビクン。驚きで飛び跳ねる肩。

 この声……誰?


 キョドりながら、オドオドと見上げてみる。

 そこには、優し気に揺れる大きな瞳が、心配そうに私を見つめていた。



 同じクラスの、花名(かめい)礼音(れおん)君?


 女子に大人気、我が高校の王子様だよ。

 どうして……ここにいるの?