「イルジアに来てからのお前はまるで学者だな。遺跡も植物も古城も音楽も、全部調べなければ気が済まないみたいだ」

そんな彼女を眺めながら、イヴァンは楽しそうに目を細めて食後のワインを味わう。

ナタリアは目を愛らしく丸くすると、赤くなった頬を両手で押さえて言った。

「申し訳ございません……。楽しくてつい、自分の立場というものを忘れてしまっていました」

「構わない。お前が楽しそうにしているのを見るのは俺にとっても至福だ。それにイルジアに来るまで立ち寄った国々で、お前は立派に皇后の務めを果たした。今は存分に羽を伸ばすといい」

責められたわけではないとわかって、安堵したナタリアは再び表情を緩ませる。

夫の前でだけ見せるその無防備な顔は少女の頃の面立ちを思い起こさせて、イヴァンの胸を静かに疼かせた。

「……でしたら、イヴァン様。寝る前にもう一度、書庫へ行ってもいいですか? さっき見かけた本がどうして気になっていて」

「何? 書庫はもう真っ暗だぞ」

「燭台を持っていきます。本を見つけたらすぐに出ますから、少しだけ……」

そしてわがままを言うときの上目遣いもあの頃のままだとイヴァンは内心苦笑する。

「仕方ないやつだ。ひとりで行くなよ、必ず女官と侍従を連れていけ」

無邪気に破顔したナタリアに、イヴァンは眉尻を下げて笑いながら大切な条件を付け足した。

「共寝の時間までには戻れ。先にベッドで待っているからな」