さらにイヴァンの所有する別荘は別格の素晴らしさだった。

小高い丘の上に立つそれは四百年近く前に建築され修復を重ねてきた、本物の古城だ。

石造りの厚い壁に、円筒の塔。武骨ともいえるどっしりとした城は余計な装飾がなく、石で造られた煉瓦の壁には蔦が這ってアクセントとなっている。

庭にも彫刻や噴水といったものは一切なく、代わりにニレやケヤキの木が植えられていて、自然との中和が古城の魅力を引き出してくれていた。

内部も清潔に手入れはされているが雰囲気を壊すことなく、再現された中世のインテリアで統一されている。トンネルのようなアーチの廊下にはクリスタルのシャンデリアも金のつけ柱もなく、飾られているのは騎士の甲冑と紋章の刻まれた盾だ。

灯りはすべて燭台の蝋燭だけで、オイルランプがないのは心許ないような気がしたが、イヴァンいわく夜には月の光がよく差し込むから問題ないそうだ。

イルジアの遺跡や遺物に興味津々のナタリアは、すぐにこの古城が気に入った。到着してひと休みする間もなく城の探索に赴き、イヴァンや侍女たちに苦笑されるほどだった。

「イヴァン様。トリースの街もセレーノ島も素晴らしくて、イルジアは本当に夢のような国ですね。私、感動で胸がずっとドキドキしっぱなしです」

その日の晩餐時、ナタリアは興奮気味に頬を染めてそう語った。

今日の晩餐のメニューは城の雰囲気に合わせた野趣あふれる料理だったが、いつもより量の多いそれを綺麗に食べつくしたことからも、ナタリアが心身ともに活き活きとしているのが伝わってくるようだった。