二ヶ月という長い旅路には問題も色々あった。道中でナタリアが心を乱してしまったときには危険回避のため馬車を停めざるを得なかったし、他国が歓迎のために開いてくれた晩餐会でナタリアが席を立ってさまよいだしたときには、さすがにイヴァンの肝も冷えた。

けれど苦労するだけの価値は十分に合ったと、子供のように瞳を好奇心で輝かせるナタリアを見ながらイヴァンはつくづく思った。

「イヴァン様、お願いがありますの。帰りに市場へ寄ってもよろしいですか? 花売りが見たいのです」

古代遺跡の見学から名残惜しそうに引き上げたナタリアが、馬車に乗り込みながらそんなことをねだってきた。

「花売り? 花など買ってどうする。明日には離宮を発ってセレーノ島へ行くんだぞ」

イルジアでの滞在はひと月半を予定している。トリースの離宮を拠点に観光をしたり領土の視察を一ヶ月した後は、南方の海へ出て諸島のひとつセレーノ島で残りの半月を過ごす予定だ。

セレーノ島はスニーク帝国の領土でもあり、ここにはイヴァンが皇太子時代に購入した別荘もある。

イルジア半島よりさらに温暖で冬でも色とりどりの花が咲き誇り、白い砂浜と驚くほど透明な海を有したセレーノ島は、イヴァンのお気に入りだ。きっとナタリアも気に入ってくれるに違いない。