それにイルジア半島はスニーク帝国に比べかなり温かい。南部の方では冬でも気温が十度を下回らないため雨が降っても雪にはならず、鮮やかな花まで咲いているほどだ。
スニーク帝国へ輿入れをしてから例の症状が悪化しているナタリアにとって、もしかしたらいい療養になるかもしれないという思いもあった。
イヴァンは雪に閉ざされるスニークの大地を愛してはいるが、他国から来たものが長い冬に気を塞ぎがちなることも理解している。
今のナタリアには鉛色の雪雲の下にいるより、太陽の明るく照らす南国で過ごす方がよいのではないかというイヴァンの意見には、側近も臣下らもみな首を縦に振った。
そうして二ヶ月後。通過する国々で晩餐会や舞踏会の歓迎を受けながら、イヴァンとナタリアはイルジア半島のスニーク帝国領トリースの街へと到着した。
「ああ……! なんて素晴らしいの……。イヴァン様、私、今、二千年前の人々の息吹を確かに感じています……!」
念願の古代遺跡を前にして、ナタリアは目を輝かせっぱなしだった。
やはりイルジアの文化や芸術は彼女の琴線に触れるらしく、トリースに着いてからというものナタリアは休む間もなく文化遺産を見て回り、夜はオペラに明け暮れ、暇さえあれば本を読み漁った。
そんな彼女の姿を見て、やはり連れてきてよかったとイヴァンは満足する。



