なんとか歩けるほど回復したものの、ナタリアの凍傷で痛めた足はまだ完治とはいえず包帯を巻いている状態だ。足に負担のかからない柔らかい靴に作り替えさせたけれど、式の間は立ちっぱなしになることを思うと不安はぬぐえない。

それにくわえ、ナタリアの精神が不安定なのも相変わらずだった。

ほぼ毎日のように心をさまよわせている彼女が、今日もいつ正常でなくなるかと思うと、イヴァンも側近らも臣下たちも気が気ではなかった。

どうかせめて、大勢の人目のあるところでは発症しないでくれと臣下らは願う。

そしてイヴァンは、どうか神の前で誓いを立てるときだけはローベルトの名を呼ばないでくれと、心から願った。

不安からイヴァンがわずかに顔を曇らせると、隣のナタリアが絹の手袋に包まれたしなやかな手でそっと頬にふれてきた。

「なんだか、イヴァン様の方が緊張されているみたい」

心配そうに顔を覗き込んで小首を傾げるナタリアは、無垢そのものだ。

彼女は知らない。自分が意識を失っているときに、亡き婚約者を追い続けていることを。そのたびに愛するイヴァンがどれほど深く心に傷を負っているかを。

自室を抜け出し雪の中をさまよって足に凍傷を負ったときも、目を覚ましたナタリアは何も覚えていなかった。

痛々しく腫れた自分の足を不思議そうに見て、その原因を誰も教えてくれないことを悟ると、『困ったわ。これじゃあ結婚式の靴が入らなくなってしまう』と眉尻を下げただけだった。