「申し訳ございません。私ってば、なんて恥知らずなことを……」

イヴァンは手に持っていたグラスを置くと、俯いたナタリアの顔を両手で包んで上向かせた。

ナタリアの顔を見つめてくる彼の表情に、怒りや侮蔑の色はない。それどころか深い青の瞳には、隠しきれない喜びが浮かんでいた。

「俺の……俺の妻だと……思ってくれるのか……」

どうやら自分では図々しかったと反省した発言は、彼にとってはむしろ喜ばしいことだったようだ。

十五歳から人生をやり直したナタリアは、自分と自分を取り巻く人々の思惑をいまいち把握できないでいる。誰もが優しく接してくれながらも本音は隠しているようで、まるで靄の中を歩いているような気分だ。

だからイヴァンがナタリアを妻にすると言ってもそれは両国間の政略結婚だと思っていたし、彼が自分を大切にしてくれるのは婚約者としての責任や哀れみ、あるいは己が手掛け育てたものに対する愛玩なのだろうと漠然と受けとめていた。

けれど今、彼の切なさに満ちた青い瞳を見てそれは違うと感じた。

根拠はない、でもきっとこれは恋だ――とナタリアは思う。

恋がどんなものなのかもよくは分からないけれど、ナタリアは自分の胸も締めつけられるように苦しくなるのを感じた。

そして、彼を抱きしめたくて仕方がないとも。