(ナタリアは俺のものだ。スニーク帝国を担う俺にこそ、ナタリアを妻にする権利がある。誰にも渡さない――たとえローベルトが地獄で手招きしていたとしても)
険しい表情で唇を噛みしめたイヴァンに、ナタリアが心配そうに小首を傾げ尋ねる。
「どうかされましたか、イヴァン様」
声をかけられ、イヴァンはハッとしてここが舞踏会場の控えの間だったことを思い出す。
「いや……なんでもない。ちょっと昔のことを考えていただけだ」
表情をほぐすと、心配そうに眉尻を下げていたナタリアの顔もホッと緩んだ。
「そんなに怖いお顔をされるなんて、いったいどんなことを思い出されていたのです?」
「気にするな。それより、綺麗だぞナタリア。いつも美しいが今日のお前は一段と輝いている。会場の者たちの目がくらんでしまうな」
「もう、褒めすぎですわ。ただでさえ緊張しているのに、煽るようなことをおっしゃらないでください」
扇を開いて顔を隠してしまったナタリアに、イヴァンはフッと噴き出して肩を揺らす。
「こんなことで恥ずかしがってどうする。これからは俺の妻としてあらゆるところに姿を見せるのだぞ。もっと自分の美しさに慣れろ」
「ですから……! もう、何度も『美しい』っておっしゃらないでください!」
耳まで赤くしているナタリアを見て、イヴァンの胸に言いようのない愛おしさが満ちる。
彼女の肩を抱き素早く頬にキスを落とすと、ナタリアはますます顔を赤くして涙目になってしまった。
「イヴァン様は私の心臓を止めてしまうおつもりだわ……!」
恥ずかしさのあまりすっかり拗ねてしまったナタリアに、イヴァンは謝りながらももう一度頬にキスをした。



