そのことに気づいたとき、イヴァンは自分の全身が総毛立ち震えるのを感じた。
決して手に入れられないはずの少女を、抱きしめても許される日がくる。……兄がいなくなったおかげで。
こらえようのない喜びはそれ以上の罪悪感とぶつかり合って、イヴァンに魂が腐るような自己嫌悪を植えつけた。
まだ少年だったイヴァンは多感な心に大きすぎる自己嫌悪を抱え、意識するたびに腐敗した己の魂を吐き出すように嘔吐した。
――ローベルトに生きていて欲しかったと思う。兄を愛し尊敬していた。その気持ちに嘘はない。けれども。
来る日も来る日も嘔吐し、食事が喉を通らないほど自責の念に駆られても、イヴァンは捨てられなかった。ナタリアを愛している自分を。ナタリアを妻にできる喜びを。
シテビア王国との婚約が破談にならないよう必死に立ち回り、やがて父が倒れ代わりに実権を握るようになると、イヴァンは自分の中から罪の意識を消した。
ナタリアを娶るのは、このスニーク帝国を双肩に担う者の権利だ。
神はこの偉大な帝国を率いる重責と引き換えに、最愛の伴侶を与えてくださるのだと考えるようになっていったのだ。
その考えは正しいとイヴァンは今でも信じている。
だから彼は聞きたくない。ナタリアの心が七年前にさまよいだしてしまうのは、ローベルトの呪いだなどという噂は。



