ローベルトが亡くなったとき、イヴァンも大波のような感情に襲われ、しばし自分の気持ちを整理できない時期があった。
自分を責める気持ちがもちろん一番大きかった。あのときローベルトを止めることが出来たら、あのときもっと早く探しにいっていれば……後悔の尽きた夜などない。
そんな彼をさらに苛ませたのが、ナタリアの状態だった。
ローベルトの死を目の当たりにし意識を失ってから、ナタリアは喋れなくなったと聞いていた。
そばにいてやりたかったが、ローベルトが獣に食い殺された原因はナタリアのせいなのではないかという両国間のいさかいが生まれたせいで、それは叶わなくなった。
イヴァンは両親に何度もナタリアのせいではないと訴えたが、愛すべき息子で国を託すはずだった皇太子を亡くした両親は深い悲しみのせいで聞く耳を持たなかった。
優しかった兄も。愛しいナタリアも。良好だった親子の関係も。昨日までの幸福を何もかも失ってしまったのは、イヴァンも同じだった。――けれど。
こんな残酷な状況の中で、イヴァンは自分の中の悪魔を知る。
スニーク帝国帝位継承権一位。それがローベルトを亡くしたことでイヴァンに回ってきた権利だった。
兄が将来背負うはずだったものがすべてイヴァンの手中に落ちてくる。そう、それは――シテビア王国との政略結婚も。



