舞踏会当日。
ナタリアはイヴァンの見立てた淡いラベンダー色の舞踏用ドレスを纏った。
豊かなプラチナブロンドには真珠のヘッドドレスを編み込み、ナタリアの高貴な美しさを最大限まで引き立てている。
着飾らず化粧をしていないときのナタリアは儚く透き通るように美しいが、彼女の身分にふさわしい装いをさせるとたちまち輝くような典雅な淑女に変貌した。
やはりナタリアは生まれついての王族だとイヴァンはつくづく思う。それも同じアスケルハノフ一族の血を引いているのだ。代々続く北方の高貴な血は伊達じゃない。
美貌も、品性も、教養も、ナタリア以上に優れている女がこの世にいるとは思えなかった。
彼女のそんな生まれ持った稀有な美しさに、イヴァンは少年の頃から心惹かれている。まるで神に愛された特別な存在のようだと。
それでいてナタリアは内面も愛らしい。素直で優しく、ちょっぴり臆病だ。少女の頃は機嫌を損ねると意地を張ってしまう未熟さもあったけれど、それもかわいらしいと思う。もっとも、成長した今でもその片鱗は残っていて、からかい過ぎて彼女の機嫌を損ねるとしばらく口をきいてくれなくなってしまうこともあるのだけれど。
ナタリアに恋をしてからもう十年近くが経つけれど、世界で一番彼女を愛おしく思う気持ちは色褪せるどころか、どんどん深く大きくなっていく。



