ナタリアが心を病んでチェニ城に軟禁されていることは、シテビア王国はもちろんスニーク帝国にも広く知られている。
そんな王女を娶ろうともなれば、国内からは反対の声があがり、国外からは嘲笑され外交にも影響を及ぼすだろう。
そうならないためにも早いうちにナタリアが心身とも健康であることを、国内外に示す必要があった。
そして舞踏会当日――ナタリアは実に七年ぶりにスニーク帝国を訪れる。
季節は冬。建物も道も畑も何もかもが雪に覆われた、延々と続く白銀の世界へと。
シテビア王国のチェニ城から舞踏会場であるスニーク帝国の帝都までの旅路には、イヴァンも同行した。
チェニ城を経ってから四日目。国境を越えたイヴァンたち一団はソリに乗り換え、帝都コシカに向かう。
ソリは馬車と違い小型で、ふたり乗りの形をしている。座席の前方に跳ね雪を防ぐ板はあるが屋根は短く、風と降りしきる雪に耐える必要があった。
「寒くないか、ナタリア」
イヴァンは、隣で厚い毛皮の外套と襟巻にくるまって身を縮めているナタリアを片腕でしっかり抱き寄せた。
座席は緩やかな角度になっていて、防寒さえしっかりしていれば苦ではないのだけれど、雪風に慣れていない者にとっては過酷な乗り物に感じるだろう。



