普段のナタリアはとても穏やかで心優しい。
侍女や相談役などの側近だけでなくチェニ城で働くものすべてに気を配り、困っているようであれば自ら手を差し伸べた。
花が好きで、殺風景だった中庭を花いっぱいの花壇に改装させ、自分の手で育てた花を近隣の村人に振舞うこともあった。慈善活動にも熱心で孤児院と病院への手紙と贈り物も欠かしたことはない。
上品で美しく、そして信心深く。今のナタリアは誰からも愛され敬われる王女だ。――だからこそ、心が少女に戻ってしまったときの彼女の姿は異様で、チェニ城で仕える誰もが胸を痛めていた。
「私たちはナタリア様がうしろ指を指されるのが嫌なのです。本当はお心の優しい素晴らしいお方なのに、もし舞踏会でお心を乱されたら誰もがナタリア様を蔑み笑います。お願いです、殿下。ナタリア様を大切に思われるのでしたら、どうかそのような酷いことはなさらないでくださいまし」
侍女らは涙ながらにそう訴えたけれど、イヴァンの決心は変わらなかった。
「ならばお前らはナタリアにこの城で籠の鳥のように生きろというのか。王女に生まれた女を相応しい場に出して何が悪い。俺は絶対にナタリアを舞踏会に出席させる。舞踏会だけじゃない。いずれ俺と共にすべての公式行事にも参加させるし、俺のパートナーとして世界中どこへでも連れていく。ナタリアに外の世界を見せることと、一生この城に閉じ込めること。酷いのはどちらか考えるんだな」
結局話し合いは平行線のまま、イヴァンの絶対命令によりナタリアは舞踏会に出席することになった。



