ナタリアが言葉も感情も取り戻しここまで立派な王女になったというのに、未だにスニーク帝国へ連れ帰ることも出来ず、シテビア王宮の親元へも戻れないのは――彼女が七年前の呪いから逃れられていないからだ。
今でもナタリアの心はなんの前触れもなく、七年前の世界をさまよいだす。
侍医は三年間彼女の症状を診続けてきたが、治療も予防も未だ見つかっていない。
彼女の悪夢は昼だろうと夜だろうと構わず訪れるが、最近になって冬の方が頻度が高いことだけがわかった。
雪に覆われた景色があの日の悲劇を思い起こさせるのだろうか。それとも、鉛色の空が続く冬は気分が落ち込みやすく精神が不安定になるのだろうか。理由はわからない。
どちらにしろいつ異常な状態に陥るかわからないナタリアを公の場になどとても出せないというのが、イヴァンを除く両国の王家と宮廷官らの意向だった。
特にすぐそばでナタリアを見ている侍女や侍従らは、彼女を舞踏会に出すことに強く異を唱えた。
「もし舞踏会の最中にナタリア様のお心がさまよわれてしまったら、非難を浴び恥をかくのはナタリア様です。そんなおかわいそうなことはあってはなりません。どうかお考え直しください」
侍女や相談役らがイヴァンに向かってそこまで必死に懇願するのは、彼女たちがナタリアを慕っているからだ。



