イヴァンが自国へ帰ってしまってからもナタリアは順調に回復を続け、半年が過ぎる頃には周りの世話係たちともずいぶん意志の疎通が可能となった。
それを機にイヴァンはチェニ城に人を増やすことにした。侍従や侍女、相談役に秘書官らもつけ、病人の生活から王族の一員らしい生活へと変えさせた。
環境を整えたことで本来のあるべき姿に目覚めたのか、ナタリアはみるみる王女としての威厳を取り戻しはじめる。
打ち捨てられた美しい人形のようだった姿は、王家の女として洗練された高貴な美に生まれ変わり、それに相応しい知性と教養も兼ね備えた。
相変わらず予断を許さない外交と戦争に手を焼きながらも、イヴァンはそんな彼女をより美しく、よりエレガントに、そして心身ともに健康な女性にするため尽力した。
そして月日は流れ――ナタリアは十八歳になった。
王女としての振る舞いと教養を完璧に身につけたナタリアを、イヴァンは社交界へ出そうと決める。
スニーク帝国、およびシテビア王国での女性の成人年齢は十五歳だ。ナタリアはとっくにその年齢を超えてしまっている。社交界デビューとしては遅すぎるくらいだ。
イヴァンは一刻も早く彼女を公の場に出してやりたかった。彼女は完璧だ。美貌も気品も威厳も、ここまで王女として完璧な女性はこの大陸に他にいまい。
それほどまでに努力した彼女を相応しい場所に出してやりたい気持ちや、自分の将来の妻として今から顔を広めさせたい思いもあって、イヴァンは冬至週間に行われるスニーク帝国の公式舞踏会のひとつに彼女を参加させることに決めた。
しかし、この決定にはナタリアの侍女や相談役、侍従たちから反対の声があがる。



