そんな長くつらい日々にひとすじの光が差し込んだのは、イヴァンがナタリアと再会してから一年と半年が経った頃。
いつものように多忙な公務の合間を縫ってチェニ城へやって来たイヴァンが、ナタリアに本の読み聞かせをしていたときのことだった。
「これがフォロ・ロマーノ。こっちがコロッセオの図だ。イルジアの古代遺跡は見事だぞ。なんせ紀元前に存在したものだからな。イルジアの青空の下で数千年前の帝国に思いを馳せるのはロマンを感じる」
大陸南方にあるイルジア半島の図鑑を見せながらイヴァンがその魅力について語っていると、じっと図鑑を見つめていたナタリアの口もとが微かに動いた。そして。
「……私も、見てみたいです……」
隣に座るイヴァンの方を向き、ナタリアはそう言ってわずかに目を細めた。
突然の希望の訪れに、イヴァンはまん丸く目を開いたまま固まる。そして込み上げてきそうになる涙をこらえようと強く瞼を閉じると、ナタリアを包むように抱きしめ「ああ。一緒に見にいこう。約束だ」と震える声で紡いだ。



