「ナタリア。自分でスプーンを持つんだ。ほら、こうやって」

食事中、作法の教師の必死の説明にも無反応なナタリアに、イヴァンは彼女の手を取り優しくスプーンを握らせる。

「そうだ、じょうずだ。美味いだろう? お前の好きなキノコと羊肉のスープだ」

彼女の手に自分の手を添え口までスプーンを運んでやる甲斐甲斐しいイヴァンの姿に、彼の側近の侍従らは密かに眉根を寄せた。

大国スニーク帝国の次期皇帝ともあろう男が、こんな召使の真似事をする姿など、臣下なら目を逸らしたくなるのも当然だ。

「殿下。ナタリア様のお世話は世話係にまかせましょう。殿下が御自らされることではございません」

「ナタリアの心を取り戻せるのは俺だけだ。口を挟むな」

臣下らが何度止めようとしても、イヴァンは頑なにそれを拒んだ。

そして会いにきてやれなかった四年間を悔やみ取り戻すかのように、自らの手でナタリアの身の周りの世話をし、知識を与え、王女としての気品と振る舞いを取り戻させようとした。

しかし何も変わることがないままに時間は流れ、再会から二週間後、イヴァンは帰国を余儀なくされる。

ずっとそばにいてやりたいのはやまやまだが、彼にはスニーク帝国皇太子としての務めがある。ましてや皇帝である父は病床に伏せっているのだ。国家君主としての舵はイヴァンが握っているのも同然の状態だった。