ナタリアはあれから心をさまよわせることはなくなった。奇跡のような夢を見て、ローベルトのことを思い出したときからだ。

なにが原因で治ったのか医者は首を傾げるばかりだったが、最終的に妊娠をして体質が変わったことがよかったのではないかと結論づけた。

真実は、イヴァンとナタリアだけが知っている。

イヴァンが命懸けで取ってきた雪割花は薬にはされず、花が萎れてからはナタリアが押し花の栞にして宝物にしている。白い雪割花を贈ってくれようとしたふたりの男性の真心を、いつまでも忘れないように。

奇病を克服したナタリアは今まで以上に皇后活動に励んだ。これまで周囲に掛けた迷惑を償い、スニーク帝国皇后としての名誉を回復するために。

もはや非の打ち所のないナタリアを悪く言うものなどどこにもいない。彼女の美貌、品格、教養は稀代のエレガンスさを誇り、大陸一の高貴な皇后と噂されるほどだ。

そしてナタリアは子を生み母になって、ますます魅力を増した。

聖母のような輝きを持ったナタリアに、宮廷官たちでさえうっかり見惚れることがあるのだから、ナタリアを寵愛しているイヴァンの心酔ぶりときたら他国にまで知れ渡るほどだった。