「ナタリア、お前……記憶が……」

その問いかけにナタリアは深く頷き、力強い眼差しを見せた。

「私はきっと、ずっとローベルト様に守られていたのだと思います。けれど、そのことに気づかず現実から逃げ続けた愚かな人間でした。私は……もう逃げません。ローベルト様が愛し慈しんでくださった思いを決して忘れずに、前を向いて生きていきます」

ナタリアの心が過去をさまようことは、もうない。イヴァンはそう確信する。

彼女も乗り越えたのだ。イヴァンと同じくローベルトに導かれ、己の弱さを。

ナタリアは今まで見せた中で一番優しく美しい笑みを浮かべると、イヴァンの首に腕を回しそっと抱きしめてきた。

そして、思いの丈を込めて告げる。

「ローベルト様は気づかせてくれました。私にとってイヴァン様がどれほど大切でかけがえのないお方なのかを。あなたは私の光です。暗闇から救い出し、ずっとずっと私を眩しく温かい光で包んでくれていた。――今度は私があなたの光になりたい。愛しています、イヴァン様。あなたの妻としてこの先ずっと、共に歩んでまいります」

イヴァンは、今度は自分の心の中で鎖が解けた音を聞いた。重く冷たかった枷が外れ、満身創痍だった心が温かく包み込まれ癒されていく。