最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~

 
ふと視線を感じて宮殿を見上げると、三階にある皇后の寝室の窓にナタリアの姿が見えた。

寝室に閉じこもり誰とも会おうとしなくなったナタリアは、今もイヴァンの見送りにきていない。けれどやはり気にかかるのだろう。カーテンの影に隠れるように立って窓辺からイヴァンを見つめている。

イヴァンはそんな彼女に向って、小さく告げた。

「待っていろ、ナタリア。ローベルトに会ってくる」

当然その声はナタリアにも、周囲の誰にも聞こえない。それでもイヴァンは満足そうに微笑んで、捜索隊の方へと向き直った。

「これより、ブールカン山脈ふもとへと出発する! 先頭の指揮は俺が執る、遅れずについてこい!」

そう命じるとイヴァンは開かれた正門に向かって、馬を勢いよく走らせた。その後をルカが続き、捜索隊と護衛隊がついていく。

およそ四百騎の隊が蹄の音を重く響かせ正門を出ていくのを、侍従長のオルロフや宮廷官が見送った。

「陛下……どうかご無事で」

残された者たちは切実な思いで神に祈る。誰もが口には出せないでいるが、イヴァンの行き先がブールカン山脈――ローベルトが亡くなった地だということに拭えない不安があるのだ。

やがて地面を揺らす馬の足音が遠く聞こえなくなるまで、彼らは祈るのをやめなかった。