三十分後。コシカ宮殿の前には急遽編成された雪割花の探索隊、および皇帝の護衛隊が整列し、先頭にはイヴァンと侍従武官長のルカが立った。
集められた兵士たちはもちろん、大臣らや宮廷官たちまで宮殿中が皇帝の突然の命令にざわついている。
「皇后陛下を治す花を探しに行くだと? なんだってイルジアへ発つ前日になって皇帝陛下はそんな無茶苦茶なことを言いだしたんだ……」
誰もが眉を顰め首を傾げていた。自分が戻るまでナタリアをイルジアへ出発させるなとイヴァンが命じたせいで、ナタリアの侍女や女官は戸惑いを通り越し呆れかえっている。そして側近のオルロフやルカでさえも困惑を隠せずにいた。
「陛下、お考え直しください。本当にあのような信憑性のない書物に従って、花を探しに行かれるのですか?」
馬に跨ったイヴァンを見上げて、オルロフが問う。その顔には汗が滲み、眉はすっかり下がっていた。
けれどイヴァンは力強く「ああ」と言いきった。声に迷いはない。
イヴァンは確信していた。これは――導かれた運命だと。
ナタリアの時を停めた雪割花こそが、再び彼女の時を取り戻す鍵になる。
イヴァンは届けてやろうと思う。あの日、ローベルトが小さな婚約者に渡せなかった奇跡の花を。兄の想いごと、ナタリアに。



