最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~

 
男が説明するのを、オルロフは怪訝さをあらわにした表情で聞いていた。そして小声でイヴァンに耳打ちする。

「……そんな薬の話は聞いたことがありません。これ以上この男の話を聞くのは陛下の貴重なお時間を無駄にすることになると思いますが」

たったさっきまで、イヴァンもそう思っていた。「ご苦労」と労いの言葉をかけて本を返し、この男をさっさと帰そうと。

けれど今は違う。イヴァンは玉座から颯爽と立ち上がるとオルロフを振り向き、きっぱりと命じた。

「馬の用意をしろ。大至急だ。今夜、ブールカン山脈へ発つ」

「へ、陛下!?」

耳を疑って立ち尽くしているオルロフに「急げ」と再び命じてから、イヴァンは薬屋の男の前まで行き彼の手に丁寧に本を返した。

「よく教えにきてくれた、感謝する。すぐにこの花を取ってくるからお前は宮殿に残って、俺が戻ってきたらただちに調薬してくれ」

薬屋の男はポカンとしていたけれどやがて頭を何度も頷かせ、「お待ちいたしております。神の祝福があらんことを」とその場に膝を折った。