男の話を聞いて、イヴァンは小さく嘆息する。
ナタリアを心配する気持ちはありがたいが、国で最新の医療知識を持ってしても有効な治療も薬もないことはとっくに証明済みなのだ。
気持ちだけありがたく受け取っておこうと思いながら本をパラパラとまくっていたイヴァンは、あるページに描かれていた薬草の絵を見てハッと目を見開く。
そして慌てて過ぎたページをめくりなおすと、褪せたインクで描かれた花の絵に息を呑んだ。
「ああ、そうです。その薬草です。プロレースカ(雪割花)の一種ですが、非常に珍しい白色をしているんです」
開いたページを凝視して固まっているイヴァンの手もとを遠目にうかがって、男はそう言った。彼の説明を聞いて確信を得たイヴァンは、一瞬気が遠のきそうになる。
忘れたくても忘れられない、網膜に焼きついている光景。
十年前のあのとき、ローベルトの左手に握りしめられていた血まみれの白い花――それが今、ナタリアを救う一縷の光として調薬の本に描かれていた。
「山岳地方に生息するのですがめったに発見されないため入手はなかなか困難で……そのせいで今の医学ではすっかり扱われなくなりましたが、かつては心の安寧をはかる薬として重宝されたそうです」



