「町へ行くのか? だったら一度離宮に戻って護衛をつけた方が」
てっきり町の商店で何かを見繕ってくるのかと思ったけれど、ローベルトは首を横に振ってみせる。
「違うよ。それにすぐ戻るから護衛はいらない。侍従長たちにも心配しないように言っておいてくれ」
いったいローベルトはどこへ何を取りにいくのだろうか? 見当のつかないナタリアとイヴァンは、不思議そうに顔を見合わせてしまった。
結局ローベルトはどこへ行くのか教えてくれないまま、ナタリアとイヴァンを先に帰した。
ふたりは何度も振り返りながら、大きく手を振るローベルトの姿が遠ざかっていくのを見つめる。
ナタリアの胸には、期待があふれていた。彼がどんな宝物を贈ってくれるのか、夢のような想像ばかりが膨らむ。
「イヴァン。私ね、ローベルトが何を贈ってくれてもきっと喜ぶと思うわ。だってもうこんなにうれしくてたまらないんだもの。古ぼけた帽子でも、木彫りの熊でも、きっと一番の宝物になると思う」
その日はよく晴れていて、午後の日差しがキラキラとナタリアを包んでいた。
そんな彼女の横顔を、心の底からイヴァンは綺麗だと思う。
空色の瞳はいっぱいの希望にあふれていて、これから数えきれない幸福を受けとるに違いない。
ナタリアはきっと世界一幸せな女の子になる。――そのときのイヴァンは、確かにそう思った。
「――そうだな。兄上のことだ、きっとお前がすごく喜ぶ贈り物をしてくれるに違いないよ」
隣を歩く少女を眩しそうに眺めながら、イヴァンはこの幸福なきらめきが永遠に続くことを祈った。



