次の瞬間、イヴァンはナタリアの顎を掬って顔を上向かせ、キスをした。
近くには護衛の兵や側近らもいたが、彼らの目など気にならなかった。いじらしいことを言う妻が愛おしすぎて、口づけをせずにはいられない。
「礼を言うのはこっちだ、ナタリア。愛している。俺の妻になってくれて、ありがとう」
唇を吸い、鼻先や瞼にもキスを落とすイヴァンに、ナタリアは彼を止めようと胸板を押し離そうとする。
「イヴァン様……、い、いけません。人が見ています」
「気にするな。夫婦が愛し合って何が悪い」
「けど……!」
ナタリアを強く抱きしめ顔中にキスの雨を降らせるイヴァンの姿を、周囲の者たちは呆気にとられて見ていたが、やがて慌てて目を逸らした。
年若い衛兵は顔を赤くしながら背を向け、側近らは気を遣って足早にその場を離れた。