気まずそうに押し黙ってしまったオルロフに、イヴァンはあえて力強く笑ってみせる。

「なあに、この調子ならばスニークに戻ってももう症状が悪化することはあるまい。風邪と同じだ。温かいところで養生し回復すれば、再び寒い地へ戻っても問題ない。そのためにも今はナタリアを伸び伸びさせてやらねばな」

そうあってくれと、イヴァンは心の中で密かに祈る。

これでもしスニークに戻った途端に症状が悪化すれば、ナタリアが心をさまよわせる原因が雪国の風土だということが証明されてしまう。それではスニークはまるで彼女にとって呪いの地だ。

考えたくはないが、ローベルトの手が届かないほど遠い地へ逃げるのが正しいといわれているようで、イヴァンは複雑な思いを抱かずにはいられなかった。

「……もし俺が皇帝でなかったら、ふたりでイルジアに移り住むこともできたかもしれないがな」

長い睫毛を伏せ、イヴァンはティーカップを見つめながらぽつりと零す。

なんでもいい、大公でも平民でも、皇帝でさえなければ夫婦そろってイルジアに移住することなど容易かっただろう。

けれど皇帝である以上、イヴァンは帰らなくてはならない。スニーク帝国は彼のものなのだから。

そしてイヴァンの妻である以上、ナタリアも連れ帰らないわけにはいかなかった。