これには側近も臣下たちも驚き喜んだが、イヴァンだけは複雑な思いを消せない。

今も嬉しそうに発言したオルロフの言葉に、わずかに眉を顰めてしまった。

「……日光が関係あるのかはまだ断定できない。偶然に調子のいい時期が重なっただけの可能性もある」

少し低くなった声のトーンを聞いて、オルロフは口を噤んだ。

ナタリアが快調に向かうのは喜ばしい。けれどそのせいで臣下たちの間で囁かれ始めた話題が、イヴァンの新たな悩みの種を生み出していた。

『皇后陛下は完治するまでこのままイルジアで転地療養されるべきだ』

そんな意見が密かに飛び交っていることを、イヴァンは知っている。おそらく近いうちにナタリアの側近たちが侍医をつれて、そんな提案を上奏しにくるだろう。

確かにその方がナタリアにとって幸福に違いない。イルジアに来てから活き活きとし、精神まで安定している彼女を見れば誰だってそう思う。

けれど、ナタリアはスニーク帝国皇后でイヴァンの妻だ。結婚したばかりの新妻を遠い地へ置いて帰る夫がどこにいようか。

周囲の反対を押し切ってまで手に入れたナタリアと今さら離れ離れになるなんて、イヴァンにはとても考えられなかった。