「皇后陛下のお加減は大変よろしいようですね」
晩餐後。ナタリアが書庫に行っている間、城の広間で楽団の奏でるヴァイオリンを聴きながら紅茶を嗜んでいたイヴァンに、側近のオルロフがそう声をかけた。
「ああ。イルジアに来てから毎日が楽しそうだ。皇后というよりはまるで好奇心旺盛な子供のようだが、まあいいだろう。帝都に戻ればまた皇后としての務めが待っている。今ぐらい肩の力を抜いて伸び伸びしても構わん」
ソファに凭れかかって語るイヴァンも、雰囲気が柔らかい。戦争と外交の板挟みになっていた頃とは別人のようだ。
愛する妻との旅行を堪能しているからというのもあるが、彼がずいぶんとくつろいでいるのは別の理由が大きいだろう。それは――。
「……やはり、ナタリア様に必要なのは太陽の光なのかもしれませんね。イルジアに来てからお心をさまよわせることがずいぶんと減っております」
オルロフの言う通りだった。イルジアで過ごすようになってからナタリアの症状は劇的に減っている。
スニークにいたときは毎日のように心をさまよわせていたが、旅に出てからは徐々にその回数が減り、イルジアに来てからは四、五日に一回あるかないかだ。



