昔のことを思い出してボーッとしていたところ、王宮の侍女である伽耶に大声で呼びかけられ、ハッと我に返る。



「ごめん、今すぐ行くね」

「羅沙様、ひょっとしてまだ本調子ではないのでは?」

「だ、大丈夫だよ。今日の視察だって楽しみにしてたし」

「そうですか。なら良いんですが…」

そう言って伽耶は目を細めてじっと私を見ている。

「…羅沙様」

「ん、ん?」

「……今度、竜宮にお戻りになる時は、必ずこの伽耶を側仕えとしてお連れ下さい」

「え、え?伽耶、私付きの侍女として来てくれるの?!」

「ええ、輿入れの際、羅沙様に着いて行かなかったこと、今でも後悔しております故。今度こそは必ずこの私をお連れ下さい」

「う、うん……」

もう、あそこに戻ることはないと思うんだけどね……。

伽耶が真剣な眼差しを向けて言うから、そんなことも言えないけど。




…私が、水晶竜宮から馬一匹盗んで、この金剛鬼宮へ戻ってきてから10日が経った。



道中食糧が尽きて飢餓状態となっていた私は、三日ほど寝込んだ。

ようやく床を降りても、なかなか食欲が戻らず、食事量が戻ってきたと感じたのはここ最近。

それからは、前と同じく剣の稽古をしたり、お兄様の領地運営の補佐をしたり。畑を耕したり。

本当、前と同じ生活。



…でも、それは逆に違和感を覚える。



私…誰にも言付け無しに水晶竜宮を飛び出したのだけど。

竜宮の関係者が一切、私について問い合わせてくる様子がない。