『羅沙は残念ながら、今死の淵を彷徨っている最中だ。…約十日間飲まず食わずで馬を走らせていたからな？…須弥山を通過せずに、野っ原を延々と駆け抜け、果物を盗んだ挙句、馬の餌やそこらへんに生えている草を口にし、毒草にあたり幻覚が見え……ククッ。おばか過ぎるにも程があるだろう。俺もこのおばかすぎる行為に、何年かぶりに笑みを漏らしてしまった。ククッ』
『は？なんで、そんなにツボに入ってるんだよ！…あぁ、羅沙。俺はなんて事を…！』
『…何も、おまえだけの非ではないだろう』
夜叉王はそう言って、長いため息をつく。
『…羅沙にも我慢が足りなかったのだ。主が大掛かりな討伐遠征の中、その帰りを待てないなど言語道断、妃失格だ』
『そ、そんなことはない！…俺が悪い！』
『そんなに自分を責めるな。むしろ、冷静に行動出来なかった羅沙に非がある。そんな未熟でおばかな妹を竜族に嫁がせるわけにはいかない』
『ま、待ってくれよ！』
『この件は一旦保留だ。おまえは家臣らを、俺は羅沙を落ち着かせてからもう一度話し合おう。代わりに羅沙が盗んだ馬を連れて帰るがいい』
『…いや、あげる』
