なのに…兄上は、この世からいなくなってしまった。
大掛かりな魔族討伐遠征の際に、戦死してしまったのだ。
竜王領の海に出現した大物魔族。
緊急で軍を立ち上げたが、予想外の強さで討伐は失敗。甚大な被害を被った上、取り逃す。
俺が不在のため、先頭で指揮していた兄上は、その魔族の会心の一撃を浴びて…即死だった。
俺が善見城の任務で、王領を離れている時に。俺の居ぬ間に一瞬で始まり、終わった出来事だった。
水晶竜宮内は、悲しみに包まれると平行に混沌とする。
作戦は計画通り進めていたのかとか、何故第二王子不在で出兵したのかとか。死んだ兄上の力量は如何程だったのかとか、王に相応しいのは圧倒的な強さを誇る第二王子の方だったんじゃないかとか、老中院の年寄り達が無責任にぶつくさ陰口を叩いたり。
母上は、息子を失うという愛別離苦の悲しみで、心が病んでしまった。
だけど、そんな悲しみに打ちひしがれる暇もなく。
その僅か一月後に、自分にとって絆の深い、大切な友人をも失う。
よりによって、兄上を死に追いやった魔族の手によって。
深い悲しみをとうに通り越して。
ただ、自分にひたすら問い続ける。
俺は、その時何してた?
兄上と貴俊が死を迎える瞬間、俺は何してた?
何も出来なかったのか?守れなかったのか?



