「すみれ、こっちにおいで」


満員電車の中、ギュウギュウ詰めの車内で庇うように彼が私の背中に手を回す。


「凄い混んでるね、毎朝こんななの?」


慣れない揺れにフラフラしながら、彼の腕にギュッとつかまった。


「うん、この時間帯は仕方ないよ」


「そっか、ごめんね。私が一緒に行きたいって言ったから」


彼の勤務先の高校と私の卒業した短大は隣接している、いわゆるエスカレーター式の学園だ。


行き先がほぼ同じ場所だから、彼の通勤にあわせてついてきたのだけど。


いちいち庇ってもらって申し訳ないような気がしてくる。


壁際に私を立たせて守られるような形なので彼が大変そう。


壁に手をついて、私を両腕に閉じ込めている彼は少し身をかがめて耳元で囁いた。