さて、いよいよ一般不妊治療の第2段階、「人工授精」である。
もう、わたしの心境としては「いよっ!待ってましたゴッドハンド!いっちょズバンと決めてくれっ!」って感じでした。

人工授精は、あらかじめ採取しておいた精子を、子宮内に直接注入することで、より、精子と卵子の距離を近くして妊娠率を上げるというもの。
手術(という程のものでもない)そのものは自費になる為、一回につき2万円ほどかかる。

月に一度の排卵日に合わせて苦労して夫婦生活を工面するより、よほど精神的に楽だし、なにより確実に「届く」のだから、無駄がない。しかも、採取した精子は遠心分離機にかけて、より運動率の良い元気なものだけを集めて注入してくれる。聞けば聞くほど無駄がない。(笑)非効率的なことが大嫌いな私は人工授精マンセー!って感じだったのです。その前の半年間で、夫に対してだいぶイライラしていたので。
ちなみにこの時点ではもう「精子提出」をせざるを得ない。(笑)しかも提出したら1時間ほどで通知表のように、1mlあたり何匹の精子がいたのか・運動率・直進率などが数値で明かされる。
ここにきて初めて、夫の身体にも問題がないことが分かった。となれば、嫌でも期待が高まるし、まだ私は楽観視していた。
もう一つ、共に不妊治療をしていた一つ年下の同僚がこの方法で妊娠に至ったのが、期待に拍車をかけた。確実に「届き」さえすれば、そしてそれを何回か繰り返せば、妊娠できると思っていた。

しかし、甘かった。
この人工授精でも、妊娠率は一回あたり5〜10%。
改めて、生命の誕生って、ものすごい確率で起きていることを実感する。
数万個の中の一つの卵子と、数億、数十億の中の一つの精子とが、月に一度、ピッタリのタイミングで出会って、受精して、卵管の中をちゃんと分裂しながら一生懸命進んで、なおかつフカフカの子宮の壁にピタッと貼り付いて、そこでなお成長し続けてくれなければ、妊娠に至らないのだから。考えてみれば途方も無い旅路だ。自分がこの世に誕生したこともまた奇跡なのだなぁ、などど「当院の妊娠成功率、成績表」を眺めながら病院の待合室でよく考えていた。

人工授精を5回繰り返して妊娠に至らなかった私は、ついに先生から「高度生殖医療」へのステップアップを提案される。昔で言うところの「試験管ベビー」=「体外受精」である。このとき、38歳。

40の峠が、着実に近づいていた。