一人ベッドに入った希歩は、ちょっとだけ眠れないままだった。

 目を閉じて。

 何度か寝がえりを打っても、眠れない。


 そんな夜もあるのだと思っていた。



 ちょっとうつら、うつらとして、また目が覚めてしまった希歩。

 時計を見たら23時。


 とても静かで、絢も優輝も寝てしまったようだ。



 眠れない事にため息をつく希歩。


 コンコン。

 小さなノックの音がして、希歩は耳を澄ました。


 コンコン。

 もう一度聞こえて、起き上がった希歩はドアに近づいた。



 コンコン。

 確かにドアをノックしている音だと確信して、希歩はそっとドアを開けた。



 すると。

 ドアの向こうには優輝がいた。


 優輝を見ると希歩の胸が大きく高鳴った。

「ごめん、寝てた? 」


 ちょっと小さめの声で優しく尋ねる優輝の声を聞くと、希歩の目が潤んできた。

 
 潤んだ目を見られたくなく、ちょっと顔を背けた希歩。


「中に入ってもいい? 」


 そう言われると、小さく頷いた希歩。




 
 床頭台の灯りだけがついている。

 ベッドに並んで座ると、希歩はちょっと緊張した面持ちになった。


「ごめんね、疲れているのに…」

「いえ…」


「眠れなくて。来てしまったんだ」


 ギュッと唇を噛んで希歩は黙っている。


「…ねぇ、希歩…」


 そっと、優輝の手が重ねられた。

 鼓動が早くなりグッと込みあがってくるものを感じた希歩は、また、目が潤んできた。


「もう、僕の事。1人にしないでくれる? 」


 1人にしないでって…。

 それは私も同じ気持ち…。


「一緒にいて欲しい。これからは、希歩と一緒に生きてゆきたい」


 重ねた手を引き寄せて、優輝はギュッと希歩を抱きしめた。


「愛している…心から。…だから、僕と…結婚して下さい」


 プロポーズの言葉に、希歩は溢れそうな気持が止まらなくなってしまった。

 
 優輝の胸の中で涙が溢れてきた希歩は、胸がいっぱいになり言葉が出なかった。



「希歩…」


 
 優輝はそっと、希歩の顎を取った。

 泣いている顔を見られるのが恥ずかしくて、希歩は視線を落としたままだった。