俺は、左手にはまってたその指輪を一度抜き取り、右手の薬指にはめた。
それから、空いた左手の薬指に新しい指輪をはめた。

「これでもう、桃香は俺のものだから。
絶対に俺の前からいなくなるの、禁止な。」

「え?」

「俺、絶対、単身赴任とかしないから。
どこへ転勤しても桃香も誠も連れてくから
覚えといて 」

俺がそう言うと、桃香は照れたように微笑んだ。

「桃香、誠を抱っこしてもいい?」

「ん、もちろん 」

桃香は、少し落ち着いてきた誠を、俺に手渡す。
だけど…

「ふぇ……… 」

俺に抱かれた途端、誠はまた泣き顔を見せた。

「ごめんね。今、ちょうど人見知りの
時期だから 」

そうなんだ。

「人見知りってことは、知らない人だから、
泣くんだろ?
じゃあ、これから、泣かなくていいよう
にいっぱい遊んで覚えてもらわないと。
俺、育児もちゃんとするから 」

オムツ替えもできるようにならなきゃ。

「ふふっ
分かった。頼りにしてるね 」



 その日、俺は誠が寝付くまでその部屋にいた。
だけど今の俺には、オムツ替えもお風呂もそのあとの着替えも、誠のために何一つしてやれない。
桃香はこの一年半、一人で不安な出産や初めての子育てと戦ってきたんだ。
俺も早く桃香の負担を軽くできるように頑張らないと。


 二十一時。
俺は誠が寝付いたのを見届けてタクシーを呼んだ。

「会えて嬉しかった。
週末、また来るから 」

「うん 」

俺は玄関で桃香を抱き寄せる。

「桃香、愛してる 」

俺は耳元でそう囁いてそっとくちづけた。

遠回りはしたけれど、俺たちの幸せは、ここから始まる。
桃香も誠も絶対に幸せにするから。


愛してる。

俺の永遠の愛を君に…


─── Fin. ───