「送ってくれてありがとう」
レストランを出て帰る事になり、今は家の前まで送ってもらった所。
家に着くと車からわざわざ降りて私が家の中に入るのを待ってくれる遥くんは本当に優しい。
「遥くん、お仕事とか忙しくない時でいいから…」
そんな優しい遥くんを見上げながら、言いたかった事を口にしようとするけど恥ずかしくて言葉が詰まってしまう。
「なに?」
私が言おうとしてる事がわかってるのかわかってないのか、遥くんが優しい笑みを浮かべたまま続きを促す。
「忙しくない時でいいから…、また、」
「うん」
「また、こうやって…お出かけしたり…したいな…」
腰に手を回されたり、髪を撫でられたり甘い言葉を囁かれたりして恥ずかしくなるけど、自分の口からこういう事を言うのはまた違った恥ずかしさがある。
私は恥ずかしくて赤くなった顔を隠す様に俯いた。
「依良は可愛いね」
俯いた私に向けられた言葉。
“可愛い”なんて言葉、きっと誰に言われても、絢人に言われても恥ずかしくなってしまう言葉だろう。
だけど遥くんに言われるのは恥ずかしいなんてもんじゃない。
口癖の様に会う度に遥くんはそう言ってくれるけど毎回心臓が爆発しそうになるんだ。
胸がドキドキして、ギュウギュウして。
嬉しいのになんだかむず痒くて…。
「可愛くてないよ…」
そう否定するのが精一杯で。
だけどその精一杯も無駄になる。
「依良は可愛いよ」
目を細めながら遥くんの手が頬を優しく滑るから。
「また出掛けよう、二人で」
頬に手を置いたままそう言う遥くんは本当に狡い。
私の心を掴んで離さないから。
「うん」
「ほらもう家の中に入りな、風邪引くよ」
私が頷いたのを確認して頬から手を離した遥くんは家の中に入るように言った。
確かに寒くなってきた…。
「そうするね。遥くん今日は楽しかったよ。ありがとう」
「俺も楽しかったよ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
最後にそう言って私は遥くんに背を向けた。