「は?離す度に依良が握ってくんだもん。大変だった。覚えてないの?」


「覚えてるわけないよ…なんかごめんね」


「俺としては役得だったけどね」


「なに言ってるの」


「だって普段依良から手握ってくるなんて滅多にないから」


そんな話をしていると、ふと気になった。




「………ねえ絢人」


「ん?」


「本当にずっと絢人がそばにいてくれた?」



私がそう言うと絢人は一瞬、表情を固くした。

だけどそれは本当に一瞬で、次の瞬間には優しい笑みを浮かべていた。



「いたよ。なんで?」


あれは夢だってわかってる。

でも、もしかしたら…夢じゃなかったかもしれないなんて…そんな訳ないよね。



「ううん、なんでもない」




そう言った私を真剣な眼差しで絢人が見ていたなんて──。


この時の私には気づけなかった。




そして、「遥くん」という自分の声で目が覚めた事も忘れていた───。